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【図解】イランの複雑な政治体制をわかりやすく解説してみた

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    その特殊な政治構造と外交関係から度々世界を賑わすイランのニュースですが、最高指導者や大統領が共存していたり、イスラーム法がなんだかんだなど、なかなか理解し難い点が多いのも事実。

    そこで、まずはイランの政治の仕組みを理解してみると、ニュースの理解度も深まり、より一層イランへの興味関心が湧いてくるのではないでしょうか。

    イランの政治なんて関係ねーや!という方も、その国の政治含め現状を理解することで、旅行中に得れる経験も豊かになれると思いますので、是非皆さんもご一緒にイランの政治に関しての理解を深めて行きましょう♡

    イランの政治体制は超複雑!

    Embed from Getty Images

    イランの政治の特徴はなんといっても、1979年に起きたイラン革命の中心人物であるホメイニーが唱えた「ヴェラーヤテ・ファギーフ」と呼ばれる「イスラーム法学者が国を統治する」と言う思想の上に成り立ってる点です!

    何やらマニアックな用語が出てきましたが、簡単に説明すると、日本などの多くの国は、

    「国民が選んだ総理大臣や大統領がリーダーとなり、政治を行っていく」

    という感じですが、イランでは、

    「国民が選んだ大統領がリーダーとなり、イスラーム法学者の管理の元で、政治を行っていく」

    という仕組みになっています。

    ちなみに、イスラーム法学者とは「イスラームを大学院などで研究しためっちゃ詳しい人」です。

    イメージとしては弁護士のイスラーム版みたいな感じですね!

     

    三権を凌駕する最高指導者

    イランの政治_ハメネイ

    2代目最高指導・ハメネイさん from Khamenei.ir

    上記のように、国民が選んだリーダー(大統領)も、イスラーム法学者に管理される形になるので、実質のトップはイスラーム法学者の中でも一番偉い人、ということになります。

    その人こそが、ニュースでよく聞く「最高指導者」ですね!

    2020年現在の最高指導は、上の画像の2代目最高指導・ハメネイさんです。

    初代は現在のイランを建国したホメイニーさん。

    イランの政治_ホメイニー

    初代最高指導・ホメイニーさん

    基本的に最高指導者は終身制ですので、1989年にホメイニーさんが死去したタイミングでハメネイさんに替わってます。

    「ホメイニー」と「ハメネイ」って名前めっちゃ似てるからややこしいですよね。アメリカのトランプさんも、よくハメネイさんのことを「ホメイニー」と間違えて呼ぶことで、メディアを騒がせています。(わざとか本気で間違えてるかは知りませんが)

    で、この最高指導者は名の通り一番偉い人なので、大統領よりも偉いのはもちろん、現代政治の基礎ともなっている、

    ・行政(政治全般を執り仕切る機関)
    ・立法(政治のルールである法律を作る機関)
    ・司法(法律に則って具体的な事案を裁く機関)

    以上のいわゆる「三権」をも凌駕する力を持っちゃってます。

     

    イランの政治体制を図式化してみた

    そんな感じで最高指導者をトップにしたイランの政治体制を図式化するとこんな感じ。

    イランの政治体制

    イランの政治体制 by PERSIANIZED

    うん・・・もはや初見では全く意味わからないですよね。

    この表が初見でよく分からない大きな理由としては、

    ・監督者評議会
    ・公益判別会議
    ・専門家会議

    というイラン特有の政治機関がある為だと思います。

    でも、ここで意味わからなくても大丈夫です!

    一個ずつ紐解いていけば全体も理解できる様になりますので!

    ということで、1個づつ順を追ってみていきましょう!

     

    イランならではの政治機関

    イランの政治体制

    イランの政治体制 by PERSIANIZED

    まずは、図のピンク色の部分、

    ・最高指導者
    ・専門家会議
    ・監督者評議会
    ・公益判別会議

    以上4つの、イランの政治体制特有の機関をみていきます!

     

    最高指導者

    ハメネイとホメイニー

    左:ハメネイさん 右:ホメイニーさん from Khamenei.ir

    国のリーダーである国家元首の位置に君臨する最高指導者は、半端ない力を持っています。

    箇条書きにしてみると、

    ・監督者評議会のメンバーの半数の選出権
    ・大統領の解任権
    ・最高司法権長の任命権
    ・イラン軍の最高司令官としての権限
    ・革命防衛隊の最高司令官としての権限
    ・国営放送局(TV・ラジオ)の総裁の任免権

    という感じ。

    監督者評議会とは下で詳しく説明しますが、簡単にいうと実際の政治に具体的に口を挟むことができる機関です。

    この監督者評議会のメンバーの半数を自らで指名できる訳なので、最高指導者の力は実政治まで影響を与えることが可能なのですね!

    また、国軍と革命防衛隊の2つの軍隊も最高指導者の直属にある為、他の国とは違い国会の承認なんかも必要なく軍隊を動かすことだって可能です。

    戦争に関しても、最高指導者が宣戦布告の権限も持ってます。

    日本は宣戦布告の権限に対してのルールは一切なく、アメリカでさえ宣戦布告には議会の承認が必要なのに対して、イランでは最高指導者が「戦争開始だ!」と言えば戦争が始まっちゃいます。

    最高指導者の力、半端ないですよね・・・

    でも、この最高指導者は一応制度上は「専門家会議」を経由して国民が間接的に選べる様になっています。

     

    専門家会議

    専門家会議の様子

    専門家会議の様子 by Mohammad Ali Marizad

    専門家会議とは、国民が選挙で選ぶ88人のイスラーム法学者からなる機関で、主な権限は、

    ・最高指導者の選出
    ・最高指導者の罷免

    という感じ。

    なので、最高指導者は国民が選んだ専門家会議メンバーによって決められる為、国民が間接的に最高指導者を選べる様にはなってます。

    とはいっても、現在のハメネイさんはまだ2代目なので最高指導者選出の前例もほとんどないのに加え、ハメネイさんもスムーズに次期最高指導者として選ばれた訳ではないので、現状では「国民が間接的に最高指導者を選出できる」とは言い難い感じになってます。

    \ 2代目最高指導者を巡るドタバタ劇!/
    元々2代目最高指導者は、専門家会議が事前に選んだモンタゼリーという人がなる予定だったが、モンタゼリーがホメイニーを批判したことで次期最高指導者の選出を撤回された。その後、ホメイニーが死去した後にハメネイが2代目最高指導者に選出されたが、当時のハメネイの地位だと憲法的に最高指導者になれなかったので急遽憲法改正をした。

    で、もちろん最高指導者を罷免したことも、しようとした事も今のところ一度もありません!

     

    監督者評議会

    監督者評議会は、政府機関の中でも非常に強い力を持っている機関で、

    ・選挙の立候補者の審査と認証
     ※大統領、国会議員、専門家会議選挙
    ・議会で可決した法案の審査と承認
    ・憲法の解釈

    以上の役割を持っています。

    この評議会は、

    ・最高指導者が指名する6人のイスラーム法学者
    ・司法長官が指名し、議会が選出する6人の一般法学者

    から成る機関で、例えば大統領選挙への立候補者や、国会で可決した法案なども、「この人(法律)はイスラーム的に良くないから、立候補(法案)は却下ね!」ということができちゃう訳です。

    なので、監督者評議会がある限り、絶対にイスラームに反する政治は行えないことになりますね!

    しかもメンバー半数は最高指導者が指名しますし、残りの半分を指名する「司法府長官」自体が最高指導者が指名されて決まりますので、

    監督者評議会にも最高指導者の影響は絶大なものがあります。

    また、この監督者評議会はメディアによっては「護憲評議会」と呼ばれる事も多いので注意しましょう!

     

    公益判別会議

    公益判別会議は、最高指導者の任命による30名前後の知識人から成る機関で、主な役割は、

    ・議会と監督者評議会の意見が割れた際の調整
    ・最高指導者に対する諮問

    です。

    言うなれば最高指導者や監督者評議会が暴走した際にストッパーとなるような役目となる機関ですね!

    ただ、最高指導者がそんなに大それた暴走はしない為、そんなに日の目を見る機会も多くない機関です。

    メディアによっては最高評議会と呼ばれる事も多いです!

     

    イランの行政府の仕組み

    イランの政治体制

    イランの政治体制 by PERSIANIZED

    次に、実際に政治を運営する行政府(図のオレンジ部)についてみていきましょう!

    ここで紹介する機関は、

    ・大統領
    ・諸閣僚

    です。

     

    大統領

    イランの政治_ロウハニ大統領

    第7代大統領・ロウハニさん by Meghdad Madadi

    一般的に共和制をとっている国は、アメリカの様に大統領が国家元首として政治のトップに立ちますが、イランの国家元首は事実上最高指導者ですので、イランの大統領はあくまでも「行政府のトップ」にしか過ぎません。

    そうは言えども、大統領は国民の直接選挙で決まりますので、イランの世論が政治に大きく反映するポストになります!

    事実、イランの核開発問題を見てみても、現在の大統領であるロウハニさんは穏健派の人で、外国に歩み寄り、2015年には欧米諸国といわゆる核合意を締結し、イランの核開発を制限する政策を取りましたし、その前のアフマディネジャードは保守派の人で核開発にも賛成派でしたので、核開発を進めた結果、欧米から経済制裁を食らうようになりました。

    最高指導者も一応は大統領をクビに出来る力を持っていますが、選挙によって国民が選出した大統領を頭ごなしに解任させてしまうと、それはもう完全な独裁政治になってしまうので、いくら最高指導者であろうとも、大統領の政策にはよっぽどのことが無い限り口出しはしていないようです。

    また、イランの大統領は4年×最大2期制で、直近20年ほどはアメリカのように、8年ごとに保守化と穏健派(ないし改革派)から交互に選出されているので、今後のこの流れが続く可能性が高いと思われます!

    なお、改革派と言えどもイスラームに反していると思われる人は監督者評議会によって立候補すら認められないので、革命的な大統領が出てくる可能性はゼロです。

     

    諸閣僚

    第二次ロウハニ内閣

    ロウハニさんと諸閣僚たち(2017)by Mohammad Hassanzadeh

    日本の内閣と同じように、イランも大統領が諸閣僚を指名し、政策を執り行います。

    閣僚は数名の補佐官、20名前後の大臣、10名前後の副大統領などで組織されます!

    2020年4月現在の各閣僚は下記の通りです。(★は女性)

    ・ジャハンギリ第一副大統領
    ・ヴァエジ首席補佐官
    ・ヴァエジ大統領府長官(兼任)

    ・ホッジャティ農水大臣
    ・ジャフロミ通信大臣
    ・シャリアトマダリ労働社会福祉大臣
    ・サーレヒ文化大臣
    ・ハータミ防衛大臣
    ・デジュパサンド財務大臣
    ・ホセイニ教育大臣
    ・アルダカニアンエネルギー大臣
    ・ザリフ外務大臣
    ・ナマキ保健大臣
    ・ラフマニ産業大臣
    ・アラヴィ情報大臣
    ・ファズリ内務大臣
    ・アヴァーイー法務大臣
    ・ザンゲネフ石油大臣
    ・ゴラミ科学大臣
    ・エスラミ交通都市開発大臣
    ・ソルタニファルスポーツ・青年大臣
    ・モウネサン文化遺産工芸観光大臣

    ・サーレヒ原子力担当副大統領
    ・カランタリ環境担当副大統領
    ・ナハヴァンディアン経済担当副大統領
    ・ジョネイディ法律担当副大統領(★)
    ・シャヒディ殉教献身担当副大統領
    ・アミリ議会担当副大統領
    ・サッタリ才能担当副大統領
    ・ノバハト運営計画担当副大統領
    ・エブテカール女性担当副大統領(★)
    ・アンサリ行政区画担当副大統領
    ・ラベイソーシャルコミュニケーション担当大臣

    以上33人から組織されています!

    こう見てもやはり女性の閣僚が2/33と圧倒的に少ないのが気になるところですね・・・!

     

    イランの立法府の仕組み

    イランの政治体制

    イランの政治体制 by PERSIANIZED

    次に、実際に政治の元となる法律を作る機関についてみていきましょう!

    日本の国会と同じく立法府は議会となりますが、監督者評議会などの他議会との混同を避ける為にペルシャ語で「マジレス」とも呼ばれたりします!

     

    議会(マジレス)

    イランの議事堂 by Mahdi Sigari

    イランの議会は日本と同じように選挙で選ばれた議員によって形成されます。

    ペルシャ語で議会はマジレスなので、イランの議員はマジレスで行われる様々なトピックに関してマジでレスポンスしていることになりますね。

    議員定数は290人で、内5議席はイスラーム以外の宗教向けに設置されており、内訳は、

    ・アルメニア系キリスト教徒(2議席)
    ・アッシリア系キリスト教徒(1議席)
    ・ユダヤ教徒(1議席)
    ・ゾロアスター教徒(1議席)

    と、各宗教非常に小さいですが、イスラーム教徒以外の参政権も保証している形になっています。

    主な職務に関しては、

    ・法案の審議(日本と同じく大半は政府提出の法案)
    ・国家予算の承認
    ・国際条約の批准
    ・大統領への問責や弾劾

    という感じなので大体日本と同じです。

     

    監督者評議会による制限がある

    日本と大きく異なる点としては、先にもお伝えした様に監督者評議会による制限がある点ですね!

    議員の立候補は監督者評議会の審査が必要なので、イスラームに相応しくない人は立候補すらできませんが、もちろんイスラーム法学者以外の一般人でも(監督者評議会に落とされない限り)立候補し、議員になることは可能です!

    また、立法の部分でも、議会(マジレス)で法案が可決されたとしても、

    ・イスラーム法に関する法案は、6人の監督者評議会のイスラーム法学者
    ・憲法に関する法案は、12人の監督者評議会のメンバー全て

    以上が法案成立に対する拒否権を持っていますので、監督者評議会がOKを出さない法案は全てマジレスに「要修正」という形で戻されます。

    そしてその後、監督者評議会とマジレスの間で折り合いが着かなかった場合は、最高指導者が指名する人で組織された公益判別会議が間に入って物事を決定する、という感じなので、議会が持つ権限も日本などに比べて大幅に制限されていることが分かりますね!

    ただ、そうはいえどもサウジアラビアやUAEなど、湾岸諸国のイスラーム色が強い国の議会は、議員自体を国王や首相が任命しちゃうので、それらの中東の国と比較すると、イランは民主主義の色が濃くなってはいます!

     

    イランの司法府の仕組み

    イランの政治体制

    イランの政治体制 by PERSIANIZED

    イランの司法は、最高指導者が任命する司法府長官の元、一般裁判所特別裁判所で構成されており、一般裁判所は日本と同じく三審制をとっており、他の政治機関の様な大きな違いは少ないです。

    ただ、特別裁判所は軍事裁判所宗教者裁判所革命裁判所(反イスラーム・反政府などの治安が対象)の様ないかにもイラン的な専門的な裁判所があり、それぞれの事案によって適切な裁判所で裁くようなシステムをとっています。

     

    シャリーアの適用範囲

    石打ち刑を受ける女性

    石打ち刑を受ける女性

    イスラーム世界での法律といえば「シャリーア」と呼ばれるイスラーム法があり、イランではシャリーアに基づいての憲法や法律の元で、司法制度も成り立っています。

    シャリーアと聞くと、公開鞭打ちや石打ち、手足切断などのハッド刑と呼ばれる刑罰の残虐さが度々世界のニュースで話題になっていますが、誤解の無いようにいうと、ハッド刑が現代イランで執行されるのは非常に稀です。

    大事なポイントとしては「裁判所にて、直接シャリーアを使って裁いている」ということではありません。

    正しくは「シャリーアに基づいて作成した現代的な法律を使って裁いている」ということです。

    例えば窃盗罪を見てみると、シャリーアでは「手首を切り落とす」というハッド刑があり、実際にイランの法律でも「窃盗初犯で指を切り落とす」というのもありますが、この刑が執行されることはごく稀で、ほとんどの場合は、懲役などの世界でも一般的な刑罰がくだされます。

    ただ、現在でも悪質な犯罪者には、稀に手足切断のような刑罰が下されたり、リベラル化が進む社会とは真逆を行く「同性愛は死刑」などのイスラーム色が強い刑罰が残っている事も事実ですので、日本や欧米諸国の目線でみると理解し難い点が、様々な議論を巻き起こしたりしています。

     

    この記事のまとめ

    いかがでしたでしょうか。

    再度に今回の政治セクションをまとめると、

    ・イランの政治はイスラームの教えに基づき、イスラーム法学者の管理の元で運営される。
    ・イスラーム法学者のトップが最高指導者で、その権力は三権をも凌駕する
    ・行政のトップである大統領は、国民が選挙で決めることができる
    ・最高指導者は大統領をもクビにできる権力を持っているが、それをやっちゃうと完全な独裁になってしまうのでそこまではしない

    という感じでしょうか。

    また、今後も各セクションを深堀りした解説記事も増やしていこうと思いますので、ご期待くださいませ〜!

     

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    けんちゃん
    25歳の時に行った世界の旅で、一番ハマった国がイラン! それ以来、イランの虜になりました♡ ペルシャナイズドの運営を通じて、もっとたくさんの方々にイランの魅力を感じて頂くべく、情報発信してまいります!